昭和48年創業の『若草寿司』は三代目の比佐夫妻が閖上の魚市場の近くで経営していたが、震災時に大きな被害を受けた。その後、大きな不安を抱きつつもお客様からの励ましや応援が新たな一歩を踏み出す勇気となり、閖上さいかい市場の仮設店舗で営業を再開したそう。震災前に比べて考え方も柔軟になってきたそうで、若い客層に合わせSNSにも力を入れてきた。
応援してくれるお客様の期待を裏切りたくない、愛する家族のために頑張らねばと必死だったという。時にはお客様に「この店、入りやすい?」と直接尋ねることで、より気楽に入れる親しみやすいお店になるよう努力を惜しまなかった。そして7年半の仮設店舗での営業を経て閖上の新しい商業施設「かわまちてらす」での出店を決断するに至ったのである。
店内は和モダンな落ち着いた雰囲気で、窓も多く外から店内が見える造りになっている。ユニフォームや椅子のカラーもやわらかい若草色で統一し、ホール担当の奥さまのセンスが活かされている。
お寿司の前に、もずく酢と煮付けが運ばれてくる。それをゆっくりつまみながら高ぶる気持ちを抑える。一番人気の「松海鮮丼(2,400円税別)」は約10種の新鮮魚介を贅沢に盛り込んだ海鮮丼で、華やかな彩りに「おぉ!」と思わず声が出る。まずはひときわ存在感のある海老を手に取りいざ実食。ねっとりとした甘みと旨みに笑顔がこぼれる。もちろんみそもしっかり味わい尽くす。ふっくらしっとりの釜揚げしらすも旨みたっぷり。脂の乗った大トロに、しっとりみずみずしい赤身にもう「美味しい!」が止まらない。贅沢極まりない海鮮丼に大満足。
「桜握り(2,800円税別)」は、赤貝、ホッキ、白子やウニ、そしてカニなど豪華なネタが品よく並んでいる。どれもツヤツヤと光り輝いていて、新鮮さが際立っている。日本一と評される閖上の赤貝は色鮮やかで身も厚く、コリコリした独特の食感がたまらない。口いっぱいに広がる磯の香りの余韻も残さず楽しむ。ウニの旨さもまた格別だ。とろりとした舌ざわりと優しく深い甘み、そして鼻に抜けるウニの香りにうっとり。あっという間に溶けてなくなるのが惜しいくらい。一貫いただくごとに感動の波が押し寄せてくる。お寿司ってなんて素晴らしいんだろう!海の恵みと店主への感謝の気持ちが自然と湧いてきた。
他にも、その日の一番ネタが豪快に盛られた「極上おまかせ海鮮丼(3,800円税別)」や、おすすめネタが盛りだくさんの「厳選極上おまかせにぎり2人前(7,800円税別)」など、ファミリーで楽しめるメニューも取り揃えている。
何十年もの付き合いのお客様も多数いて、閖上までわざわざバスを乗り継いでご来店される方もいらっしゃるという。お店の味のファンであるのと同時に、店主夫妻のあたたかい接客に癒されるのであろう。「自分の居場所があるというのは幸せなことです」としみじみ語る店主の比佐さんの隣りで、優しく微笑む奥さまがなんとも印象的であった。